茄子は「成す」に通じることから「一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)」といわれ、めでたいものの1つとされています。
「ナス」という呼び名は「ナスビ」の女房詞(にょうぼうことば)です。女房詞とは、平安時代初め頃から宮中の女官が用いた一種の隠語で、豆腐のことは御壁(おかべ)、浴衣のことをゆもじ、ニラのことは二文字(ふたもじ)などと呼びました。二文字とは、古く葱が「き」と呼ばれて一文字だったことに対しての呼称です。団子はいしいしと呼ばれましたが、「いし」とはおいしいと同じ意味の言葉です。
さて、「茄子(なすび)の花と親の意見は千に一つも仇(あだ)がない」ということわざがありますが、仇とは無駄という意味で、茄子の花は咲いたら必ず実がなり無駄にならないように、親の意見で役に立たないものは一つとしてない」という意味です。また、「秋茄子は嫁に食わすなと」いうことわざは、味の良い秋茄子を食べさせないという姑の嫁いびりとも、体を冷やすので食べさせない方がよいという思いやりの意味があるとも解釈されています。
初夏から初秋にかけてがおいしい夏野菜です。インド原産の野菜で、日本では8世紀の書物にすでに記載があり、古くから栽培されてきました。
成分の9割が水分という茄子にはあまり栄養がないと思われていますが、体を冷やす効果があり夏バテに有効な上、皮に含まれるナスニンという成分には抗酸化作用があり、コレステロールの上昇を抑える働きがあるとされています。
茄子は、日本各地で様々な大きさや形のものが作られています。大型の丸ナスには加茂茄子があり、京都の伝統野菜に挙げられています。泉州水茄子は、大阪堺あたりで特産される卵形ナスです。皮も実も柔らかく多汁で甘みがあり浅漬けに最適な品質とされています。小粒の小丸ナスでは山形の伝統野菜である民田(みんでん)茄子があり、辛子漬けなどの特産品が知られています。また九州地方では、煮物に適した長さが25㎝を超える大長ナスも多く栽培されています。
料理屋さんでは、この時期に色鮮やかな「茄子の揚げ煮」がよく提供されます。茄子は古釘を入れて炊くと鮮やかな紫色になりますが、調理する時の温度が高いと色のさめてしまうことがあります。皮目に細かい切り目を入れた茄子を油で揚げてから出汁で炊き、冷ました煮汁につけて味をなじませるまでの丁寧な仕事が、美しい茄子紺色を生み出します。(2017年8月)