現在の刺身は、生の魚を酢で食べる鱠(なます)から始まりました。
古く魚の生食はすべて細く切り、酢などで調味して出す鱠だったとされています。室町時代の中頃になると、鱠よりも厚く切って調味料を添えて出すものを刺身と呼ぶようになったといわれています。
刺身の材料は主に魚ですが、雉や鴨などの鳥類、筍や松露などの野菜や茸類も用いられ、精進の刺身の主な食材としてハス芋や麩、豆腐、蒟蒻などが挙げられています。
刺身の語源は、切るという言葉を忌みて刺すというとか、その魚の鰭を刺して何の魚かがわかるようにしたことからなどの説があり、漢字も刺身のほかに指身、指味、差味、魚軒など様々に表現されています。
古く室町後期の「四条流庖丁書」には、鯉は山葵酢、鯛には生姜酢、鱸ならば蓼酢など、それぞれの魚に適した調味酢があげられていて、江戸時代、刺身に添える調味料の多くには、煎酒(いりざけ)や蓼酢、山葵酢、生姜酢、辛子酢、生姜味噌、蓼酢味噌などが用いられていました。煎酒は古酒に削り鰹節や梅干し、たまり(味噌から取るうま味の強い液。のちのたまり醤油)を少量入れて、煮詰めて濾したものです。江戸時代の後期になると梅干しの代わりに酢が用いられるようになりました。その後醤油が普及すると酢で食べるものは鱠、醤油で食べるものは刺身と区別されるようになります。