端午の節句は現在では男の子の節供として祝われていますが、昔は女性のためのお祭りでした。田植え前のこの時期に女性は、邪気を祓うとされる蓬(よもぎ)や菖蒲(しょうぶ)で屋根を覆った家にこもって身を清めたとされています。それが時代を経て、江戸時代になると菖蒲が尚武(武を重んじるの意)に通じるとして、男の子の無事な成長を祝うようになり今日に至ります。
菖蒲の葉には芳香があり薬草としても用いられ、この日には病気や厄災を祓うとして菖蒲湯に入る風習があります。蓬は葉に香気を持つキク科の多年草で、若葉は草餅に用いられ、その香りや緑色を楽しませてくれます。成長した茎や葉からはもぐさが作られます。
蓬は平安時代になると荒廃した景色などを象徴する言葉に用いられるようになり、蓬が一面に生い茂った荒れ果てた所という意味の蓬生(よもぎう)などの言葉が生まれたとされます。源氏物語にある蓬生の巻は、荒廃した屋敷に住む末摘花と光源氏の話が描かれています。
端午の節句に欠かせないのが柏餅や粽(ちまき)です。
関東では柏餅、関西では粽という傾向があります。
柏餅に用いられる柏の葉は、若い葉が出ないと古い葉が落ちないことから、跡継ぎが絶えないようにと願って食べられるようになりました。
江戸時代の初め頃の砂糖はまだ貴重品で、当初の柏餅は塩餡だったようです。甘い餡になったのは江戸時代後期からといわれています。
粽は、古くは茅(ちがや)の葉で巻いたことから茅巻の名前があるといいます。
5月5日に粽を食べるのは、中国の楚の国の屈原(くつげん)の故事によるものとされています。
国を憂えて汨羅(べきら)に入水(じゅすい)した屈原を弔うための供物が悪竜たちに横取りされないようにと、後に餅をまこもの葉で包んだ粽を作って水に投じたのが粽の起こりと伝えられています。(2013年掲載)